下條村の個人経営の宿「月下美人」(下條村睦沢)でゴールデンウィークの5月4日、宿泊客向けに開くファミリーコンサートと星空観察会が開かれた。
駐車場にござを敷いて、背中に大地のエネルギーを感じながら星空観察を行う
同旅館では15年ほど前から宿泊客向けに、社長の児島博司さんら経営者家族がファミリーコンサートを開き、終了後に駐車場へ移動し星空観察会を開く活動を続けている。
グループ名は「家内興行1.2.3!(ワンツースリー)」。当日は、宿泊客60人のうち40人ほどが参加した。始めに社長の博司さんが「星に祈りを」を独唱。続いて妻の紀子さんが、ピアノで「エリーゼのために」を披露。続いて紀子さんのオカリナと三男の康人さんのギターで「見上げてごらん夜の星を」と「アメージンググレース」を演奏した。最後に再び博司さんが登場。康人さんのギターに合わせて「そっとおやすみ」を熱唱し、宿泊客の温かい拍手が送られた。
終了後、宿泊客に「ござ」を渡し、駐車場へ誘導。ござを敷きあおむけになって寝転ぶと、康人さんの軽快な星空解説が始まった。当日は満月に近く、明るくて星が見えにくい状況だったが、丘の頂上にある旅館の空は広く、北斗七星や金星などの星空を楽しんだ。月明かりの中、紀子さんが機転を利かせ、オカリナで「おぼろ月夜」を演奏。この様子は「ナニコレ珍百景」でも取り上げられたこともあるという。
千葉県から訪れた家族連れは「星を見たかったので少しでも見られて良かった。駐車場にござを敷いて星を見る体験は初めてで、めったにできない」と話す。名古屋から来た家族連れは「これまでにない演出でびっくりした。今までにない体験ができて良かった」と戸惑いながらも楽しんだ様子を見せた。
博司さんは「客は最初みんな驚く」と言う。「ロビーコンサートは個人経営の旅館として何か色を出さないといけないと常に考えていて、接待や料理、ワインなどさまざまな工夫を考えてきた中で、他にも何かできることはないかと模索しながら始めたこと」と話す。
「近年はコロナ禍で、旅館業も大変な時だったが、客の少ない日でも毎日続きてきた」と胸を張る。「コロナの時は歌はやめていたが、私のピアノとオカリナを続けて頑張ってきた」と紀子さん。星空観察会は、博司さんが旅行代理店の知り合いからレーザーポインターをもらったのがきっかけ。「阿智村の星空が有名になっているが、先駆けは当館」とも。
博司さんは、以前より、とにかく歌が好きで、小学校の合唱班では数々のコンクールで受賞するなどし、友達とダークダックスのまねをして大人たちを驚かせていたという。「人との交流がとても楽しい」と博司さん。コンサート中に、たまたま宿泊していたプロのソプラノ歌手やピアノ奏者が飛び入り参加したり、オカリナの先生が紀子さんのオカリナを指導してくれたり・・・コンサートを通じた全国の方との交流が楽しいという。コロナ禍前は「ふるさと」をいっしょに歌って涙してくれた人もいた。
今後の目標は「80歳まで活動を継続することと、旅館のテーマソングを作ること」と意気込む。
「いろんな意味で厳しい個人経営の旅館を広めるには、これらの活動は有効だし、今後、息子たちにもオリジナルな形で引き継いでいってほしい」と期待を込める。
毎日演奏していると、その日の体調や心の揺らぎなどが手に取るように分かるという。「いい形で家族のコミュニケーションができているのでは」と笑顔で話す。