飯田出身の日本画家、菱田春草の生誕150年記念特別展「創造の道筋 画巻(がかん)四季山水への歩み」が10月5日、飯田市美術博物館(飯田市追手町、TEL 0265-22-8118)で始まった。
1874(明治7)年に現在の飯田市仲ノ町(なかのちょう)に生まれた菱田春草の完成作品や未完成作、下絵やスケッチなどの資料100点ほどを並べる同展。150年の節目に合わせ、春草の孫、笹本千草さんから春草の作品やゆかりの資料476点が同市へ寄贈され、そのうちの一部も今回展示する。
初日のオープニングセレモニーで、笹本さんは「見る人にそれぞれの見方や考え方、メッセージをもたらす『絵画の力』。皆さまの力を借りることで、多くの方に『絵画の力』を届けられるように」と述べた。
今回のタイトルにもある「四季山水」は、春草が眼病の療養生活を支えた美術愛好家の秋元洒汀(しゃてい)へ、感謝の気持ちを込めて描いた9.3メートルの画巻(がかん)=巻物で、春から冬にかけての季節の移り変わりと、朝から夜へと進む時間の経過を描いている。
同展で「四季山水」は、画面構成を練るための「小下絵」(笹本さんより寄贈)と、構図を固め完成作と同じ大きさで描く「大下絵」(個人蔵)、「完成作」(東京国立近代美術館蔵)の3点を初めてそろえた。同館学芸員の小島淳さんは「春草がどのように作品を完成させたのか、その道筋を見てほしい」と紹介する。
初日に三重県から家族で訪れ、油絵やイラストを描くという女性は「春草は、嫌いだという猫を丁寧に描いていて、嫌いなのにここまで細かく描けるのが不思議だなと思った。未完成作が多く並んでいるので、どうやって描き進めたかが分かり勉強になる」と感想を話す。
洋画を趣味で描くという男性は「非常に丁寧に描いていてびっくりする。人物の指の描き方を見たくて訪れた。繊細に丁寧に描いていて、自分にはまねできないが大変参考になる」と話す。
同市在住の男性は「東京国立近代美術館には10回以上出かけているが、『四季山水』を見るのは初めて。下絵がこんなに見られて感動した。わずか36歳で、短い時間でここまで描けたことに驚き」と話し、大阪から訪れたという男性の叔母は「東京まで行かなくても飯田で見られると呼ばれた。思わぬ貴重な作品や、制作経過を見ることが出来るのは楽しい。どんな名画も下絵にはお目にかかれない」と、作品を眺めながら口々に話していた。
「春草の制作過程での準備は本制作のここへつながるんだと見てほしいし、あまりにも素晴らしい『四季山水』を、ゆっくり眺めていただければ」と来館を呼びかける。
開館時間は9時30分~17時。観覧料は一般700円、高校生以下無料。会期中の休館日は、10月7日・15日・21日・28日。