2024年度の卓越技能者知事表彰「信州の名工」の表彰者12人が10月29日に発表され、飯田下伊那地域からはシチズン時計マニュファクチャリング飯田殿岡工場(飯田市下殿岡)の組立部高級時計組立課の古林美里さんが選ばれた。同社からは6人目の表彰。
古林さんは飯田市出身で飯田風越高校卒業後、京都の伝統工芸大学校で陶芸を学び、長崎県の陶器会社に6年勤務した後、2009(平成21)年にUターンしてシチズン平和時計の子会社に入社。きっかけは「派遣で仕事を探していて、いくつか紹介された中で、ピンセットを使って作業することを聞いて、面白そうと感じた」と話す。実際に勤めたら「面白さを実感。最初はできないことが徐々にできるようになっていく過程にやりがいを感じた」とも。
その後は時計の組立ラインで技術の研さんを重ね、2011(平成23)年長野県の技能競技大会の時計修理2級で長野県知事賞(1位)を受賞。2016(平成28)年の技能競技大会では時計修理1級第3位など数々の賞を受賞し、2019(令和元)年6月に社内制度の時計組立マイスターB級に認定され、一人で高級時計の組み立てをするようになった。古林さんは「生産ラインでも仕事は充実していたが、一人で全部の責任がかかってくるのと同時にやりがいもある」と目を輝かせる。
同社の高級時計の組み立ては全国でも飯田工場だけ。社内制度の「時計マイスター」は25人が所属。スーパーマイスターが1人、A級が古林さん含め2人、そのほかはB級と若手マイスター。高級時計1本の製作には、ムーブだけで170の細かい部品から40個の部品になり、それを時計工が組み立てるまで3週間~1カ月半。さらに完成品になるまで1カ月ほどかかるという。「店頭で欲しいといって買える物ではない。待ってくれている方がいるのはありがたい。とにかく品質の良い時計をいろいろな方に手に取っていただけるよう日々、良い物を作る事をこころがけている」と心を込める。
信州の名工に選ばれ「今は実感がない。いろいろな人に『おめでとう』と言われるので、そうなんだと思う。これまでいろいろな方に支えられ、巡り合わせが重なって受賞につながっている。そういう意味で運がいい」と話す。
時計学校や生産現場では次の名工に選ばれるような後進の育成に励み、親子向けの組み立て体験などのイベントで時計の魅力を広めるなど忙しい日々を送る。「好きだと思うことをどこまでも追い求めていってほしい。自分が好きだと思えば、とことんやれば、年数はかかるかもしれないが結果はついてくる」と、これからものづくりを担う子どもたちにエールを送る。